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アマニセミナー 育脳から認知症予防まで

本日は、認知症について医学的な面からどういうことが分かっているのか、どういう疾患があるのか、そしてその予防などについてお話しをしていきます。

順天堂大学 脳神経内科 准教授 西岡健弥先生

認知症患者の増加と社会的な問題点

認知症の患者さんは増えている

 著名人で認知症になった人で、アメリカのレーガン元大統領や「刑事コロンボ」の俳優ピーター・フォークさんなどは、この病気になったことを公表しました。しかし、そういう方はむしろ少なくて、認知症になった著名人というのは、私もインターネットで検索しましたが、あまり出てきませんでした。あまり公表したくない、という感覚があるのかと思います。
 一方で、神経変性疾患の一つであるパーキンソン病については、公表している方は結構います。やはり東西を問わず、認知症に対する拒否感のようなものはまだ強いのかと思います。
 ところが、認知症の患者さんはとても増加しています。2010年で300万人、将来2025年には500万人に到達するのではないかと言われています。認知症の患者さんは都市部に多いという特徴もあります。
 なぜ認知症の患者さんが増えているのかというと、医療技術が発達して平均寿命が高くなったこと。また、核家族化の進行による独居老人のストレスや孤独も原因かといわれています。
 すべての認知症の最大の危険因子は「エイジング」つまり「加齢」です。年齢が上がるごとに認知症の患者さんは増えて、85歳以上になると30%の割合になります。

患者さんへの関わりや医療費の問題

 それにともなって起こる問題は、認知症患者への虐待です。家族が暴言や暴力、ネグレクトなどを行うことがあり、これが問題となります。東京都が発表している高齢者に関する相談でも、やはりこうした問題に関する相談が多いことが分かります。
 医療費が増え続けていることも大きな問題です。2012年は37兆円で、私が医師になった2000年頃には「30兆円を超えないように」ということが盛んに言われていましたが、40兆円を超えるだろうという勢いになっていて、やがては80兆円にもなるだろうと考えられています。
 そしてその中で、特に認知症に対する医療費が大きいのではないかと思います。この問題にはなかなかいい解決方法がないのも実情です。社会がより良い医療を求めれば、医療費はどんどん増えていくことになります。

認知症を起こす疾患群とその発症メカニズム

一時的な物忘れと認知症の物忘れ

 認知症の症状というと「物忘れ」が思い浮かぶのではないでしょうか。実際、病院へいらっしゃる方も物忘れをきっかけとする場合が多いのです。
物忘れには、一過性のものと、認知症によるものがあります。老化にともなう物忘れは一過性の一時的なもので、ちょっと最近のことを忘れるだけで、しかも継続することはありません。
 認知症による物忘れ、つまり病的な物忘れの場合には、体験の全体を忘れてしまったり、本人に物忘れの自覚がないこともあります。ですから、病院に来るのも家族に連れられて、ということが多いですね。
 日付・時間・場所という3つが欠落してしまったり、「作話」といって会話の中で都合のいいように話しを作ってしまうこともあります。

まずメンタルテストで診断

 認知症が疑われる患者さんに対して、医師は、「ICD-10」とか「DMS-・」という認知症の定義を決める基準で考えます。 例えば、記憶力の低下、認知能力の低下といった症状は、6カ月以上続いていることを周囲の人が認識している、といったことが基準になります。
 症状を聞いたら、医師が次に行うのは「長谷川式スコア」や「MMSE」というミニメンタルテストです。 ここでは、とても簡単な質問をします。現在の日時や場所を聞いたり、計算問題をやってもらったり、物の名前を憶えてもらったりします。よく知られているのは「桜、猫、電車」という3つの物の名前をこちらから言って、少したってから患者さんに言ってもらうテストです。 思いつく野菜の名前を言ってもらったりもします。これは前頭葉という脳の部分の機能を調べるためで、問題がある方は、そうした名前がなかなか出てこなかったりするのです。 質問は簡単ですが、その背景には、見当識、ワーキングメモリー、遅延再生、言語流暢性、前頭葉機能などをチェックする意味があります。 このテストは30点満点で、患者さんが24点以下だとグレーゾーンに入ってきていると考え、20点以下だと認知症であろうと判断します。
 そして、認知症であると分かったら、医師はさらに詳しい病気の種類を判断します。

認知症にもいろいろある

 認知症にもいろいろな病態がありますが、一番頻度が高いのが「アルツハイマー病」で認知症の60%ほどです。次に多いのが「血管性認知症」が20%ほど、そして「レビー小体型認知症」が10%ほどと続きます。 その他の認知症もありますが、ほとんどがアルツハイマー病と血管性認知症で占められていることが分かります。

アルツハイマー病について

順天堂大学 脳神経内科 准教授 西岡健弥 先生
アルツハイマー病の原因

 アルツハイマー病を起こしやすい因子には、糖尿病、脳血管障害、外傷の既往などがあります。逆になりにくい因子は、患者さんが高学歴であることや、バイリンガルであることだとされています。
 遺伝的な要因もあり、家族でアルツハイマー病になった方がいる場合には、自身も発症する可能性が高くなることもあります。

アルツハイマー病の患者さんの例

 アルツハイマー病の患者さんの例を出してみましょう。
 「78歳の女性。主訴は物忘れ。2年くらい前から同じことを聞くようになってきた。去年からは、好きだった趣味、テレビ、料理などをやらなくなってきてしまった。次第に、自分の物を置いた場所を忘れてしまって、盗まれたなどと被害妄想が出るようになった。また、少し突っ込んだ話しになると、調子を合わせるような、取り繕うような話しになった」
 この患者さんに対して、長谷川式スコアやMMSEを実施すると、それぞれ15点と18点という結果になり、背景に認知症が疑われました。
 次に頭のMRIを撮ります。その画像を見ますと、よく知られている「海馬」という部分、ここは記憶装置のある部分ですが、アルツハイマー病が進行すると、少しずつ体積が少なくなっていきます。
 側頭葉もという部分も、病気の進行とともに徐々に萎縮していきます。さらに末期になると、全体的に脳の萎縮があります。 脳の体積だけでなく、初期には、ボリュームがそれほど小さくなっていないにもかかわらず、血流が低下するのもアルツハイマー病の特徴といえます。

アルツハイマー病の進行

 病気が進行する段階をステージングといいますが、最初の1〜3年(ステージ1)は、最近のことが憶えられなくなってきたりします。
 2〜10年目(ステージ2)は、昔のことも忘れてしまったり、失語といってボキャブラリーが減ってきたり、今までできたことができなくなってきたりします。これは、女性の場合には料理を作らなくなるなどで顕著に見られます。
 さらに8〜12年(ステージ3)では、車いすでの生活から、ベッドの上での生活になってしまいます。

脳の中でどんな変化起きているか

 アルツハイマー病では、脳にどのような変化が起こっているのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
 アルツハイマー病で亡くなった患者さんの実際の脳を見ますと、萎縮が進んでいますが、中でも側頭葉の部分は非常に萎縮しています。 脳の切片から病理の分析をしますと、「アミロイドβ」という一種のタンパク質が凝集したアミロイド・プラークというものが見られます。これを「老人斑」といいますが、この老人斑が側頭葉から前頭葉、頭頂葉まで広範囲に出ているのが特徴です。
 それから「神経原線維変化」という病理の特徴もあります。これは「タウ」というやはり異常なタンパク質が凝集している部分ができ、脳の広範囲に広がっている状態です。
 これらがアルツハイマー病の病理の面から見た特徴です。将来的には、こうした病的な変化に対しての治療ができるように現在研究が進められています。
 高齢になって、アミロイドβがたまっていくとアルツハイマー病の発症の原因となるわけですが、最近はアミロイドPETという画像診断にもとづく研究で、新たなことも分かってきました。 それによると、アルツハイマー病ではない40歳代の人でも、アミロイドが少しずつたまりつつあるあることが分かったきたのです。 アルツハイマー病になる前に、アミロイドβやタウがたまりにくくなるようなライフスタイルを追求しようという考え方も出てきています。

血管性認知症について

血管性認知症の原因

 次に、血管性認知症について見てみましょう。
アルツハイマー病とは違って、血管性認知症は高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙の4つが原因となります。 この4つは、心筋梗塞や狭心症など血管に関係する病気につながってきます。

血管性認知症の患者さんの例

 この病気は80歳以降に多く出てくるのが特徴で。こちらも例を出してみましょう。
 「85歳の男性。糖尿病、高血圧、脂質異常症、狭心症といったリスクが背景にあり、喫煙習慣もあった。そしてこれらについて治療を受けていた。半年くらい前から、つじつまの合わないことを言ったり、何度も同じことを繰り返し聞くなどの物忘れが出てきた。段々と周囲のことに関心を持たなくなり、自閉的な感じになってきた。そして、転びやすくなった。それで心配になり家族が病院へ連れて来た」
 この患者さんに長谷川式スコアを行ってみると、点数は大変に低く、日付や「桜・猫・電車」も思い出せないという状況でした。 MRIを撮ってみると「白質脳症」という脳の細い血管が動脈硬化を起こしていることが分かります。「虚血」つまり血液の循環が悪くなっている変化です。 脳の血管だけを写した「MRA」検査では、血管が細くなっていたり、若い人だと柳の枝状にふわっと細い血管がきれい写っているものが写っていません。動脈硬化がかなり進んでいるという所見になります。

脳梗塞から血管性認知症に進む

 他にも、「アテローム血栓型脳梗塞」という動脈硬化がどんどん進んできたタイプの梗塞、「心原性脳梗塞」という心臓から血のかたまりが来る重症化しやすい梗塞もあります。 こうした脳梗塞を起こして、それで数カ月経ってから、階段状に認知症が進むのが血管性認知症の特徴です。
 症状としては、無気力、歩行困難、それに「まだら様」の認知症といってできることとできないことの差がはっきりしているという症状もあります。 言葉をつかさどる脳の部分に脳梗塞を起こすと言葉が出にくくなりますが、それ以外にも段階的にいろいろなことができなくなってきますが、できることとできないことの差が明瞭になって進行し、階段状に悪化していきます。

血管性認知症には地道な成人病予防を

 治療法としては、アルツハイマー病と異なって、「これが効果がある」という大きなものはありません。
地道に高血圧、糖尿病、脂質異常症を改善していき、それに喫煙をしていたら止めてもらうといった成人病の管理が主体になります。 歩行困難に対してはリハビリを重ねていくことになります。

順天堂大学医学部 脳神経内科 准教授 西岡 健弥 先生

レビー小体型認知症について

レビー小体型認知症の原因

 最後に、レビー小体型認知症を見ていきましょう。3番目に多い認知症です。
 パーキンソン病という病気を聞いたことがあるかと思います。高齢者で、背中を丸くして表情が乏しく、下を見ながら小刻みに歩く、そして手が震えていたりする、そんな症状を示すのがパーキンソン病です。
 パーキンソン病そのものは認知症はともなわない病気なのですが、年齢とともに70歳代後半から80歳にかけて、パーキンソン病の方も認知症を合併してきます。その認知症は、アルツハイマー病や血管性認知症とは異なるものです。
 そして、精神症状が出てくるのが一番の特徴です。特に多いのが幻視です。「孫が来ている」「隣の誰々さんがいる」「ネコがいる」といった見えないものが見える症状です。
 「レビー小体」というのは、私の専門研究分野ですけれど、脳の切片を顕微鏡で見ると分かる病的な小さなかたまりのことです。 これはα-シヌクレインというタンパク質が凝集して線維化を起こして最終的にかたまりになります。強い酸に入れても溶けないくらいの非常に強い物質です。 レビー小体が中脳という部分にとどまっていれば、薬も効きやすい普通のパーキンソン病ですけれども、レビー小体が側頭葉、前頭葉それに海馬など広範囲に広がるとレビー小体型認知症となります。パーキンソン病の重症化した疾患であると考えられています。

レビー小体型認知症の患者さんの例

 こちらも代表例をあげましょう。
 「60歳のころから手の震えが出てきた。小刻みの歩行と前屈姿勢があり、病院に行ったらパーキンソン病であると言われて薬を処方された。そのままいい状態で経過していた。しかし、5年くらい経つと、動作が緩慢になった。いない人がいる、いない動物が見えるなどと言い始めて家族が困惑した。精神症状の改善もなかなか見られないため、大学病院を受診した」
 この精神症状が、介護者にとって一番困る症状といわれています。また「意識変容」といって、例えば食事中にいきなりストンと寝てしまうなどの症状が出ることもあります。
 この方に長谷川式スコアを行うと、10点を下回るくらいの点数になりました。
 レビー小体型認知症の頭の画像を見ますと、アルツハイマー病に比べて、あまり脳の変性は起こってきません。しかし、視覚をつかさどっている後頭葉で脳血流の低下を起こしています。

認知症の治療

認知症に対する薬物治療

 認知症とひとことで言っても、いろいろな病態、メカニズムがありますが、レビー小体型認知症では、今のところいい薬は出ていません。 一方、アルツハイマー病ではいい薬があります。アルツハイマー病では、アミロイドβとタウの変性によってアセチルコリンという神経伝達物質が落ちることで、認知症の症状が強く出ることから、アセチルコリンの分解を阻止する薬が出ています。 それが、アリセプト、レミニール、イクセロンパッチという薬です。
 アリセプトは、日本人が開発した薬といわれており、発売されてから14年になります。いろいろな科学的な検証結果もでてきており、海馬の体積があまり減少しないなどの効果が判明しています。
 最近出てきたイクセロンパッチは、張り薬ですので、薬を飲んでくれない患者さんに有効です。 こうした薬を使用するには、医師の言うことをしっかりと守っていただくことが大切になります。

アルツハイマー病も成人病と深いつながり?

 発症の進行防止に関して、大変興味深い報告があります。 アメリカの都市であるインディアナポリスに住んでいる黒人の方たちと、遺伝的に非常に近いナイジェリアの自然の多い環境に住んでいる黒人の方たちを比べますと、アルツハイマー病の有病率はアメリカが4倍、高血圧は3倍、糖尿病にいたっては10倍、脳卒中は8倍くらいと、非常に高率で成人病が出ていると同時に、アルツハイマー病の頻度も高くなっていることが分かります。
 ここからさらに分かるのは、血管性認知症だけでなく、アルツハイマー病も成人病と深いつながりがあるのではないかということです。つまり成人病を予防することで、アルツハイマー病を抑えることもできるのではないかと考えられるのです。 そうしますと、食事や運動など生活習慣を改善していけば、アミロイドβやタウの蓄積を防止できるのではないか、と考えられるのです。

魚をたくさん食べることで認知症予防に

 アルツハイマー病を起こしにくい食事について、最近言われていることがあります。ビタミンE、ビタミンC、βカロチン、ポリフェノールなどの抗酸化作用の強いものが、神経細胞の変性を抑えてくれるのではないかと言われています。
 それから、もう一つ大切なのが魚です。 肉よりも魚を食べる方が、そうした変性を抑えてくれると言われています。魚をよく食べる人は、まったく食べない人に比べると、認知症の発生の頻度が抑えられていますから、魚をたくさん食べましょうと提唱されています。
 そして、和食のようないろいろな食材がバランス良く含まれ、しかも塩分控えめのものが、理想的で認知症の予防と進行の防止にいいとされています。
 身体を動かすことももちろん大切です。テレビを見ながらゴロゴロしていることは、認知症のリスクになります。物忘れに限らず、腰痛や肩こり、ひざの痛みなどに対しても、運動をすることが大切です。 ただこれは、負担があまり掛からない、リラックスして30分くらいでできる運動を2日か3日に1回くらいすることが推奨されています。

認知症の患者さんをみんなで支えたい

 最後に、私がいつも認知症の診断に当たりながら思っていることを申します。
 それは、認知症というのは本当に病気なのだろうか、ということです。医師によっては、はっきりと病気ではないと明言される方もいます。 春から冬までの季節の移り変わりの中で自然が変化しているのと同じように、人の生命も自然と同じように変化しているのではないと思います。人生の最後の方での脳細胞の変化が認知症なのではないかとも思うのです。
 ですから認知「病」ではなく認知「症」というのは、「病気」ということではなく「症状」を表す適切な言い方なのだと思います。 ご高齢の方がこれから増え、若年層が減っていくわけですが、医療関係者だけでなく、いろいろな立場の方が一体となって、認知症の方を支える社会になっていくことが理想だと思っています。

先生プロフィール

順天堂大学医学部 脳神経内科 准教授 西岡 健弥 先生
西岡 健弥 先生

■順天堂大学医学部  脳神経内科 准教授

主な研究分野はパーキンソン病・症候群 分子遺伝学、脳血管障害、慢性疼痛などで、英語原著論文を多数発表。

【経歴】
1999年 東京医科大学医学部卒業
2007年 順天堂大学大学院神経学卒業 医学博士
2008-2009年 米国Mayo Clinic Jacksonville, Department of Neuroscience, Matthew Farrer lab. 研究員
2010年 順天堂浦安病院 脳神経内科 助教授
2013年 順天堂大学医学部 脳神経内科 准教授
 
【資格】
日本内科学会 認定内科医
日本神経学会 神経内科専門医
日本神経学会 指導医
 
【所属学会】
日本神経学会
日本内科学会
日本脳卒中学会
日本線維筋痛症学会